机の引き出し

文章を書くリハビリします 落書きは机の引き出しに詰め込むよね

シロップ・練乳かけ放題

お題「かき氷」

 

先日花火を見に行って今年初かき氷も食べたことですし、かき氷テーマに単発創作してみようと思います。作り話、フィクションです。

 

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「はーい300円ね、まいどあり」

最近の屋台で買うかき氷は、まるっとドーム型にガチガチに固められた状態で出されるようになったよなぁと思いながら、そのガチガチが少しでも食べやすくなるようにと去年の記憶よりも長めにシロップのレバーを引き続ける。シロップも練乳もご自分でどうぞというスタイルが一般的になってどれくらいかなと思いながら、練乳をだばだばとかける。練乳はかけ過ぎなくらいが丁度いいし後悔はしない方がいい。人混みをすり抜けながら、ジャクジャクとストローで氷のドームを崩す。日が沈んでも残った熱気で、発泡スチロールのカップからの結露がぼたぼたと垂れ腕を濡らす。

 

ブルーシートの上に落ち着く。あまり解れてくれなかったかき氷のドームに直にかぶり付きながら空を見上げる。今日は花火大会なのだ。至近距離で惜しみなく打ち上げられる花火の光に目を細めながらかき氷を食べ進める。いちごシロップをかけたはずなのに練乳の味しかしなかった。

 

結局、花火が終わるまでにかき氷は食べきることができなかった。若干氷が残ったショッキングピンクの液体をずーずー啜りながら帰り道につく。視覚も手伝ってか、やたらに甘かった。シロップも練乳も、ガチガチの氷のドームをすり抜けて底に溜まっていたらしい。

 

悔しくなってきて、ストローをがじがじと嚙み潰していた。

 

後になってから実態に気づくのだ、何もかも。

 

気づく頃には取り返しが付かなくなっていて、残った甘ったるさに眉根を寄せるほかない。甘い味は心を満たすが、残った残骸でしかないのだ。

 

後の祭りを飲み干して、離れた。終わらないことを選んだ私たちに、終わりはない。でも、来年のかき氷も、シロップと練乳はかけ放題であってくれるだろう。